電子カルテがもたらすもの

数年前から工事を行っていた私の勤務する医療機関の工事が大詰め。本日1月10日に最後の病棟がオープンした。
システム的にもつつがなく大晦日を迎えることができたけど、念のため待機モード。
忙しくて読めずにたまっていた学会誌などを読んでみた。
半年も前のだけれど、東京都立病院が数院集まって職員を対象としたアンケートを基にした「電子カルテ導入が病院組織にもたらす効果について」と題して論文を発表してた。
アンケートを基に分析して考察するだけの論文もこの業界では結構多いのであまり期待せずに読んだのだけれど、非常に面白い結果となっていた。
電子カルテ導入の効果として期待される

  • いつでもどこでも見られる
  • 診療データが二次活用できる

などのごく一般的な効果だけではく、

  • 病院内での連携効果の向上(チーム医療の向上)
  • カルテ記載のリアルタイム性の向上
  • 見られているという意識による分かりやすいカルテ記載
  • 必要なデータを効率的に収集できるによるEBM効果や、データを迅速に患者に提供できるサービス効果

などが抽出されていた。
面白かったのは、これらの効果が「いつでもどこでも見られる(見られてしまう)」ことによる「分かりやすく読みやすいカルテ記述」を心がけるといった個人意識の変化を経て、チーム医療や専門性の向上といった組織能力アップのプロセスを踏み、結果として導き出されたものであるということ。その成熟には一定(1年以上)の時間が必要であるということ。
私の勤務する医療機関電子カルテ(正確にはセミ電子カルテ)を導入して丸3年が終わろうとしている。
ここで気になるのが果たして当院はこのプロセスにおいて成熟しているのであろうかという疑問である。
電子カルテユーザー(医療者)の電子カルテに対するリテラシーは向上した。そして最初の1年を経過し2年目までの1年間は「こういうことはできないか?」「こんな風にならないか」といった問い合わせが殺到した。注目したのは緩和ケアや褥創といったある問題を抱えた患者さまをサポートするチームを補助する機能の要望が圧倒的だったことである。実際、当院の電子カルテにはこのようなスタイルのチーム医療をサポートできる仕組みがないからなのだが。
上記で述べたプロセスを経ることで電子カルテ導入の恩恵を最大限受けることが可能であるとするならば、当院は成熟していない。言い換えれば成熟するためのプロセスを残している。患者さま1人に対するチーム医療(1対nの医療)ではなく、ある集団に対するチーム医療(n対nの医療)をサポートする機能だ。
今後、整理する必要があると考えている。