電子カルテベンダー乗り換え、データ移行の実際(当院の場合)

今回、当院は電子カルテベンダーの乗り換えを経験しました。それについて記しておく必要があると思い、まとめ的に書いてみます。
まず、一般的にベンダー乗り換え時の問題点として以下のようなことが挙げられています。

  • とにかく旧ベンダーが非協力的
  • データのフォーマットとデータを渡してあとは知らんぷり
  • データ抽出費用がボッタクリ価格

 
医療情報学会でのこのような発表が散見されます。
 
しかし、当院はそんなことは一切ありませんでした!
逆に新ベンダーのほうが動きが遅く、旧ベンダーさんから「早く打ち合わせさせてしましょう」なんてせっついてもらったぐらい。(笑)
そして、実際に抽出したデータが一部欠落していることが判明したら、大雪の夜中であったにも関わらず、すぐに駆けつけて対応してくれました。
データ移行本番
値段も一般的に聞こえてくる価格が嘘のような、妥当性のあるお値段でした。
振り返るに、ポイントは3つ。

  • 旧ベンダーさんから病院が直接データと受け取る
  • 移行データは実データとして使わない
  • 現地SEさんはもとより、その上司の課長・部長、そして営業さんと非常に仲が良かったこと

 
この3点が重要だったのではないかと。
 
まず、もっとも効果的だったのは、病院が旧ベンダーと直接契約して提出データを受け取る手法をとったことではないでしょうか?
多くの病院は電子カルテ本体の契約に旧システムからのデータ抽出費用を含めて契約していると思います。そして、データの受け渡しも「ベンダー同士で直接やってね」的なおまかせ体質。これではうまくいきません。だってお互いライバルだもん。(笑)
だから、旧システムからのデータ抽出は本体契約とは別に、病院が旧ベンダーと契約して直接費用を支払い、データも病院が一旦受け取って新ベンダーさんに渡すという手法を選択しました。こうしないと責任分界点が曖昧になり、問題が発生したときに苦労します。
 
次に、「実データとして扱わない」というのは、例えば移行したデータを新システムでDoができるような形として取り扱わず、あくまで参照用のデータと考えることを言います。
どこぞの大学病院で、ベンダー移行したにも関わらず実データとして移行し、それをDo処方したところ、マスタの不整合で大きなトラブルになったという例があります。
その病院では、医療情報部では「98%のデータは移行が出来た」と満足していたようですが、残りの2%の煽りを食らった部門からは非難轟々でした。(同じ学会でそれぞれが違う視点で発表していて、言い分が真っ向から対立していて、それはそれで面白かった)
私はたとえ1%でも実用できないデータがあるなら実データとして移行すべきでないと思いますし、電子カルテプロジェクトが始まった当初からプロジェクト会議で「(仮にベンダー乗り換えになったら)移行するデータは参照するだけのデータにしますよ」と言い続けてきました。
そして、実際に参照用として移行したおかげで、稼働日のバタバタの中でデータ移行がらみのトラブルは皆無でした。その分入力する医師・クラークさんたちには多くの時間を割いてもらうこととなったことは重々承知していますが、「自分はちゃんとオーダーしたのに部門から疑義照会の嵐」といううんざりする事態は回避出来たのだと思います。でも、医師・クラークの皆さん、手間を取らせてごめんなさい。
 
最後に、ベンダーさんとの関係です。仲が良かったというのは、馴れ合いの仲ではなく、医療情報システムについてどうあるべきかなど目標を共有しつつ互いに研鑽しあう仲だったということです。
例えば、私が研究していた看護必要度から見る看護の定量化と、それを用いた充足率から見るナースの忙しさの定量化。これについて「こんな研究してるんだけど、もっといろんな病院に知ってもらいたいんだよね」と相談したら、ベンダー主催の研究会で講師として発表する機会を設けてくれたりしました。
日常レベルでは、トラブルが発生して急遽駆けつけてくれたら「ベンダーなにやってんの!早く復旧させろ」じゃなくて、まず「すぐに来てくれてありがとう。早速だけど、一緒に原因究明しよう!(笑)」。無事に復旧したら「お疲れ様でした。でも、報告書は早く提出してねん(はぁと)」という、同じシステムに向きあう者として互いを尊敬する気持ち、こういう事の積み重ねが大事だと私は思います。
特にベンダーの1人とは、仕事を抜きにして(割り勘で)飲み、語り合う仲でした。(こういうことは本当はいけないのだけど、現行システムの抱える構造的問題とその解決策など、地方の担当者たちが語っても仕方がないことであってもお互いに意見交換したり、それはそれで有意義なものだったことは間違いないと思います)
とかく、「ベンダーはいじめるもの」と見ているとしか思えない対応をする病院(特に片手間でシステムをやっている担当者はこの傾向が強いように思えます)が数多くありますが、そういう対応をしていては必ずしっぺ返しが来ます。お互いに人間なのであって、聖人君子であるわけじゃないから。
いじめられていじめられて、最後はベンダーを乗り換えられたら誰だって非協力的になるのは仕方ないと私は思います。
 
だから私は声を大にして言いたい。「某F社であっても、真摯にデータ移行に協力してくれた例がここにあります」と。
 
そして、結果としても「データの移行」に関しては大きな問題なく移行ができたことをここに記しておきます。これは、某F社の名誉に関わることなので。

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