終わった・・・

「終焉の始まり」とかいうソフトなタイトルにしようかと思ったけど、「終わった」と書こう。
「終わった」のはボクのいる病院での地域医療連携だ。
ボクの中で今日が区切りの日になった。
何が原因なんだろう、何がいけなかったんだろうって思う。
なんで?
なんでなんだよ。なんでこうなっちゃうの?こんな風になってしまうこと、5年前には予想もしてなかった。
地域医療連携がもっと認知されて、もっと機能分担が進めば、もっと良い医療を提供できる世の中にになると思ってた。そう信じて疑わなかったし、だからこそ熱くなれた。
なのに終わった。詳しく書けないけど、ボクの病院では確実に終わった。
もうみんな好きにすればいいさ。目先の、今関わっている患者さまが大事ならそうすればいい。それで満足なんでしょ、気持ちは良くわかるから否定はしないから思うようにやってくれればいい。
だけど、なんでこうなっちゃったのか考えたことはここに書かせてほしい。
 

  • 地域医療連携は間違いなのか?

いや、そんなことはない。機能を分担してそれぞれの役割において適切な医療サービスを提供するのは決して間違いではない。

  • 診療報酬主導がいけなかったのか?

機能分担を進めるために数年前に厚生労働省は「紹介率(病院に紹介状を持ってくる人の割合)が30%を超えたらご褒美をあげるよ」制度を始めた。これで地域医療分担の認知度が向上したことは間違いない。少なくとも病院にとってはお金になるから守銭奴(経営陣や事務方)たちにはわかりやすかったし、病院内での地域医療連携担当の立場は向上した。

  • 数字を追いすぎたのか?

一定の紹介率を超えたら貰えるご褒美に守銭奴は飛びついた。そりゃそうだ。そういう人たちを食いつかせるための厚生労働省の政策だったのだから。そしてそれは一定の成果をあげた。
このあたりまでは一見うまくいっていたように思う。この頃の現場での不満は「なんで数字なのさ。数字で主導したら本質を見失うんじゃないか」っていうことぐらいだった。「ぐらい」と言っても当人たちには結構な不満だったのだけれど。
そして・・・

  • 診療報酬がなくなったのがいけないのか?

厚生労働省が主導してきたことの本質である機能分担がやっと認知されてきた。そして当初の目的を果たしたので診療報酬というご褒美はなくなった。
しかし時を同じくして、厚生労働省が同時進行で進めた臨床研修制度や7:1看護加算の悪影響などで、医療資源(医師・看護師)の人材不足はのっぴきならない所まで来てしまっていて、どこの医療機関も自分だけでは手に負えなくなりご褒美よりも自分の病院を存続させるために地域医療連携をせざるを得なかったというのが実情で、加算がなくなったにも関わらず地域医療連携を進めていくのである。
ここに紹介率による診療報酬加算は過去のものとなったのである。

  • そして現在・・・ホクが良くなかったと思ったこと

診療報酬がなくなってしまったのだが、自分の病院をなんとかまわす為に医療連携しなきゃ困るという、本質とは中途半端にかけ離れた理屈で経営陣がやたらと口を出すようになってきてからおかしな方向に進み始めた。
それは、「連携しよう」という考えじゃなく、前方や後方に「押し付けよう」という魂胆が透けて見えるぐらい丸わかりだからだ。
何年も前から地域における医療連携の理想像を追ってきた人たちにとってそんなことは到底受け入れ難いのだと思う。ボクも傍から見ていて本当に失望するようなことを言う偉い人たちがいる。
そして、経営陣が自分たちの都合で「連携しろ!」と言い出して、あっという間に連携に携わる職員が増え、なんだかわからない人がたくさん入ってきた。本当にあっと言う間で、おまけにその人たちはいわば「ただの人事異動」で来た人たちで、特段「病診連携」に詳しいわけでもなく、思い入れもあるわけではなかった。
先に述べた「経営陣の主導による地域医療連携を中途半端に理解した層の流入」によって何が起こったか。
患者さま主体になりすぎて本質を見失ったのだ。患者さまをネットワーク上の情報として考えると、地域医療連携を患者さまを中心に周囲に点在する点を放射状に結んだ線(スター型ネットワーク)と考えるのか、医療者と医療者の繋がりの上で患者さまが動いていく(リング型ネットワーク)と考えるのか、この2種類があると思う。考え方は人それぞれなので仕方が無いけど、古くから地域医療連携に携わっている人はリング型(とりわけToken Ring)支持が多く、最近の人はスター型思考に思える。そしてここに歪みが生じた。その歪みは取り返しのつかないものに拡大したのが原因ではないかとボクは思う。
 
敢えて再掲する。「目先の、今関わっている患者さまが大事ならそうすればいい。それで満足なんでしょ」。
時節柄例えると高校野球のピッチャーとバッターの心理のようなもので、二遊間の守備位置とか味方の打順とかそういうの一切考えずに今対峙している相手に対して全力投球という人も来た。(っていうか、高校野球だってそういう空気は読むよね)
よく分かるよその気持ち。野球にしても医療にしても。大事なことだから否定はできない。
でもさ・・・、でもさ・・・。
チームが負けちゃ意味ないんじゃないの?ヒット打てばいいってもんじゃないじゃん。バントだって重要だし、後逸したあとのフォローだって大事じゃん。空気読めよ。
なんで9回2死ランナー無しで一発逆転狙うんだよ。ランナーいなきゃ1点しか入らないんだぜ。
なんなのよ。っつか、なんなんだよ。
 
5年前に大学の編入試験を受けた動機は、「病院同士を繋ぐネットワーク」を作りたかったからだった。
それはそのうち「医療者同士を結び、患者さまがより良く機能分担の恩恵を受けられるネットワーク」を作りたいと思うようになった。
しかし・・・大学を卒業して、大学院に進学し、もうじき修士課程も終わりだけど、ボクな何も作れなかった。情けない。

 
さようなら医療連携。